片思いー終わる日はじめる日ー
 右・左。右・左。
 あたしは(ばく)のうしろで麦の足が規則正しく進んでいくのを見つめてる。
 こんなにドキドキすることがあったなんて。
 もちろん、麦を見ているといつでもドキドキするんだけど。
 こんなふうに、麦の背中だけが、あたしにやさしくなってから、あたしはあたしだけの楽しいことを見つけはじめた。

 右・左。右・左。…左。
 だんだんあわなくなる歩調が、うれしい。
 前を歩く麦のローファーにまとわりついた落ち葉が、今、あたしのスニーカーの下でカサカサと鳴る。
 ここで上を向いた。
「あ…、鳥がいるや。カラスかな」
 ここでポプラに手をついた。
「……なんだろう?」
 虫でもいたのかな?
 麦はポプラ並木を、駅に続く遊歩道のほうに曲がって見えなくなった。
 右・左。右・左。
 あの角を曲がったとき、同じ足が前にありますように。
 右・左。右・左。右・ひ………。
「麦!」
 たそがれのレンガ道で、麦は一段高くなった植えこみにもたれるように、倒れていた。
「麦? やだ、……麦?」
 肩をゆすると、きつくとじていた目があたしを見た。
 でも、真っ白だ。
 顔も指も、真っ白。
 どうしよう。
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