片思いー終わる日はじめる日ー
「愛情? あいつにそんなもの! ――2度も…2度も同じことをして!」
 中井は膝に顔をうずめて黙りこんでしまった。
 肩がこきぎみにふるえている。
「センセ…たちのお父さん、画家、なんでしょ……?」
「あの子が話したの?」
 中井は両方の中指ですばやく涙をぬぐうと頭を壁にもたれさせて、鼻をくっすんと鳴らした。
「今ごろニースで女の尻でも追っかけまわしてるでしょ、あのひとは。…すぐモデルに惚れちゃうバカだってうわさよ」
「でも――…。好きなんでしょ、お父さんのこと。ふたりとも」
「はん。あの子はどうか知らないけど、わたしは――」
「好きだよ。センセも、好きだよ! だって、どうしてふたりとも、絵を描いてるの? …お父さんが好きだからでしょ?」
「ア、イダ…!」
 突然、中井に抱きしめられた。
相田(あいだ)……ごめんね。…センセ、弱くって、ゴメン」
 だれかに抱きしめられたのなんて幼稚園のとき以来だったけど。
 温かくて、柔らかくて。
 この幸せな感じを(ばく)にも教えてあげたいな…って。
 あたしは泣きそうなのに幸せな気持ちで思っていた。

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