片思いー終わる日はじめる日ー
* * *
「命の恩人だな……」
口もきいてもらえないかもしれないと思いながら入ったグレーの四角い病室の、廊下側に置かれたベッドに寝そべった麦がぼそりと言った。
「そんなこと、ないよ」
そんなことない。
だって『だれかが美術室にいるかぎり、わたしゃ帰れないのよ実は。まったく、試験前だっていうのに熱心な生徒をもつと、教師はデートもできないわっ』って中井は笑ってた。
中井はね。いつも、いつも、麦を見守ってたよ。
6人部屋は、みんな男の人ばかりで、ぽつんとひとりベッドの脇に置かれた椅子に座っていると、なんだか照れくさい。
「これ、…すっごいや。電池いらないのか。エコだなぁ」
麦がラジオに差したイヤホーンをあたしに向けて突き出す。
「ゃ…いいよ。いいよ、知ってるからっ」
大海ちゃんがみんなに説明したとおり、なんか点滴してて……。
肌色の絆創膏のすきまからちょっと、腕に刺さった針が見えてるんだもん。
やっぱり……コワイよ。
「なにか、ほしいもの、ない?」
「正子バーが、朝いろいろ持ってきた。――うちのこと、聞いたよな?」
うん……。
その話は、ちょっと困る。
「ね、みんなが、お見舞いに来るって。…だから、なにかほしいもの――」
「みんなって?」
「あ…の、あの、だからみんなだよ。クラスのみんな!」
「だれがしゃべったんだ」
「――――ぁ」
うわぁ。
きゅうに怒るのやめて。
「ごめん…なさい」
やっぱりあたしは、きみを怒らせることしかできないんだ。
ごめんね。