夢みたもの
「‥さ、行っておいで?」


やがて、航平はそう言って、そっとあたしの背中を押した。


「‥え?」

「叶が待ってるんでしょ?」

「‥‥」



「早く行かないと」そう付け加えて寂しそうに笑う航平。

その言葉は、想像以上に胸に突き刺さった。


あたしの空っぽの胸に、鋭い矢が突き刺さって、痛みはじわじわとあたしを襲う。


「‥‥どうして?」

「ん?」

「どうして‥そんなに優しくしてくれるの?‥あたし、航平に酷い事一杯してるのに‥‥」


痛む胸を押さえて、呟くようにそう言うと、航平は小さく笑ってあたしの頭にポンポンと手を置いた。


「ひなこの事が大切だからだよ。それが理由じゃ駄目‥?」


「‥‥だって‥」



それに甘えたら‥‥

あたしは卑怯過ぎる。


航平の気持ちを知った上で、その優しさにどっぷり甘えてる。

ユーリの事もそう。

気持ちを知ってるのに、答えを引き伸ばして‥‥


何て卑怯。

最悪だ。


自分で自分が嫌になる。



黙ってうつむいたあたしを、航平は髪がくしゃくしゃになる程、撫でて笑った。


「そんな顔しないで良いんだよ、ひなこ」

「‥‥」

「ちゃんと分かってるから」


「時間無くなっちゃうよ」航平はそう付け加えると、もう一度あたしの背中を押して、笑って手を振った。



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