夢みたもの
今でも‥‥

今でも、一言一句覚えてる。


あたしを産んだ

実の母からの手紙。


施設に居る頃の支えは

紙切れ一枚、この手紙だけ。


それでも、幼いあたしには充分だった。



手紙の所々が、インクが滲んでぼやけている。

それは丁度、涙の跡と同じだった。


母が

あたしの為に流してくれた涙の跡。

そう思うだけで、救われる気がした。


母の愛情を信じて

きっと

きっと、迎えに来てくれると。


待ち望んだ5歳の誕生日。

母は現れなかったけれど‥

それから、辛い日々が待っていたけれど‥‥

ぬいぐるみと手紙は、あたしの宝物だった。


母を恨んだ事もあったけれど

恨み切れなかった。


恨む事は簡単だったけど‥‥

恨む事で、全ての希望を失う事の方が怖かった。




今は

今も‥‥

あたしは母を求めてる。



今の家族が好き。

優しい両親と可愛い弟。

不満なんて、何処にもない。


でも、だからこそ‥‥

血の繋がりがない事が哀しい。


本当の家族だったら、どんなに甘えられるだろう‥‥

どんなに幸せだろう‥‥


そう思う度、家族に対して後ろめたい気持ちで一杯になる。



< 461 / 633 >

この作品をシェア

pagetop