夢みたもの
「雅人、どうした!?」


先にリビングに駆け込んだ航平の声が聞こえる。

それに続いたあたしは、リビングの様子に驚いて足を止めた。


辺り一面に散乱した楽譜と本。

倒れかかった本棚が、ピアノに支えられて辛うじて立っている。



「何があったの‥!?」


「ひなこ‥航平君‥!!」


本棚のすぐ傍で、泣きじゃくる雅人を抱き締めている母。

あたしと航平を見上げて、今にも泣きそうな表情をしていた。


「お母さん‥雅人は!?」

「多分‥ビックリしただけだと思うんだけど‥‥」


震える声でそう言った母は、雅人の頭と背中を何度も撫でた。


「ね‥?大丈夫よ」

「おばさん‥ちょっと良い?」


航平はそう言って雅人に歩み寄る。

そして、雅人の頭を撫でたり、腕や足を一通り触ると、息を吐いて小さく笑った。


「たぶん‥骨が折れてるとかじゃないと思う」

「本当?」

「分かるの?」

「一応‥陸上で怪我は見慣れてるし‥‥触っても様子が変わらないから」


肩をすくめた航平に、母が安心した表情を向ける。


「‥‥良かった‥」

「あ、でも、俺‥医者じゃないから、取り敢えず病院で診て貰った方が良いです。この時間だから‥‥知り合いの病院に連絡するので、そこに行って下さい」


そう言って携帯を開いた航平。

その手際の良さに、あたしは頭が下がる思いで見つめた。



「それじゃ‥行ってくるわね。お父さんが帰ってきたら伝えておいて?」

「うん、分かった」


突然の事に余程驚いたのか、結局、雅人はタクシーが到着するまで泣き止まなかった。


「何かあったら電話して?」


遠ざかっていくタクシーを見送りながら、あたしは深いため息を吐いた。



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