夢みたもの
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赤いペンキで塗られたアルミ製の柵。

柊の垣根で囲まれた敷地。

その奥に、昔より立派になった白い壁の建物。


建物以外は、何も変わっていない。

昔と同じ雰囲気で、それはそこにあった。



「‥やだ‥航平‥!!」


航平に引っ張られるようにしてタクシーから降りたあたし。

でも、その場に立ち尽くしたまま‥‥それ以上一歩も動けなかった。


足先から始まった震えは、すぐに体全体に広がって‥‥

そこに立っている事がやっとだった。



「『逃げ出さないように』‥って、こういう事‥?」

「ひなこ」

「何で?酷いよ」



航平は、誰よりもあたしの事を理解してくれている。

ずっとそう思っていたのに‥‥



「ごめん‥ひなこ」


済まなそうに視線を落とした航平。

その瞳が微かに揺れた。


「でも、‥‥ここに来るべきだって思ったんだ」

「何で‥!?」

「ひなこに必要だと思うからだよ」


語気を強めた航平は、あたしを支えるように両腕をつかんだ。


「ひなこが前に進む為には、一度ここに来て‥過去にケリを着けなくちゃいけないって‥ずっと思ってた」

「‥‥」

「ずっと‥‥いつなら大丈夫なのか、いつならひなこが受け入れられるのか考えてた」

「‥‥」

「でも‥もう大丈夫だと思うから‥‥」

「‥‥」



『もう大丈夫』


それは、クリスマスのやり直しをしようと言った時、航平が何度か口にしていた言葉。

あれは、ユーリの目が覚めたから‥という意味じゃなかったの‥?


真っ直ぐあたしを見つめる航平を、あたしは同じように見つめ返した。



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