夢みたもの
「ごめん」


少しの沈黙の後、そう言って先に目を逸らしたのは、航平だった。

腕をつかんでいた力がすっ‥と弱まる。



「本当は‥お節介だって分かってるんだ」

「‥‥」

「でも、もうずっと昔から‥ひなこが苦しんでるのを見てきたから‥‥」


そこで言葉を切った航平。

唇を引き結んで、一瞬見せた辛そうな表情を隠すように、あたしの視線を避けてうつむいた。

うつむいた顔にかかった髪の間から、苦痛に歪めた航平の表情が見える。



そうさせている原因は自分。

そう思うと、胸が苦しくて涙が出そうだった。



「ごめんね」


あたしの口をついて出たのも、その言葉だった。


「何で謝るの?」


顔を上げた航平が小さく笑う。


「ひなこが謝る理由なんて無い‥‥これは俺のエゴだよ」


「ただ‥」そう付け加えた航平は、小さくため息を吐いて苦笑した。



「俺はね、どうしたら‥ひなこが心から笑ってくれるんだろう‥って、ずっと思ってた」

「‥‥」

「誰にも心を開かなくて‥‥その事にさえ気付かない。愛情が欲しいのに、誰かに好意を持つ事も、持たれる事も‥‥その感情を抱く事さえ拒否してる」

「‥‥」

「そんなの‥寂しいでしょ?」

「‥‥」

「この場所がその原因なら‥、ここでケリを着けなくちゃいけない。そうしないと、ひなこはこれから先もずっと‥ありもしない恐怖に苦しめられる」


「‥‥え?」


あたしが口を開きかけたその時。


「堤さん?」


落ち着いた女性の声が背後から聞こえた。



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