夢みたもの
「園長先生は、ひなこちゃんの事、本当に大切にしてたもの」


コーヒーカップの縁を指でなぞりながら、佐知先生は昔を思い出すように小さく笑った。


「一美ちゃんがいつも『園長先生はひなこちゃんを贔屓してる』って文句言ってたわ」


「覚えてる?」そう付け加えて笑った佐知先生に、あたしは苦笑を返した。


「はい‥覚えてます」



そう。

定期的に預けられていたカズミ。

カズミがそう言って怒る度、あたしは吐き気に襲われた。


あたしに敵対心、園長に絶対的な信頼と愛情を寄せていたカズミ。

今なら分かる。

毎回預けられる度、体に痛々しい痣があったカズミにとって、この場所が‥園長が唯一の救いだったんだと。

ここは本来、そういう子供達の為にあるんだと。



「一美ちゃんね、今でも時々ここに来るのよ」

「今でも?」


思わず聞き返したあたしに、佐知先生は笑って手を振った。


「あ‥違うの。今はボランティアで来てくれてるのよ」

「へぇ‥本当にここが好きなんですね」


ここに何度も来ようと思うなんて‥‥あたしとは真逆だ。

その正反対の感情と行動に、あたしは思わず苦笑する。

そんなあたしの表情をどう解釈したのか、佐知先生は少し慌てたように口を開いた。


「一美ちゃんも色々あって大変だったけど、今は福祉関係に進むんだって頑張ってるの。そうそう、園長先生が入院した時も、付きっきりで介護してくれて‥‥」


「‥そう‥‥ですか」


園長の話題が出た瞬間、あたしはピクリと肩を震わせた。


再び襲ってくる不安。


向けられる佐知先生の視線もお構い無しに、あたしは思わず周りを見回した。



「ひなこちゃん」


佐知先生があたしを呼ぶ。


「大丈夫よ、ひなこちゃん」

「‥‥」

「もう‥大丈夫だから」

「‥え?」


振り向いたあたしを、佐知先生は泣きそうな表情で見つめた。


「園長先生は‥亡くなったの」



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