夢みたもの
確かに。

両親に引き取られる迄の期間、園長に何かされた覚えはない。


ただ、じっと‥‥

あたしを見ていただけ。

何か言いたげに、暗い光を灯した目を向けられただけ。



それはむしろ‥何かされるより怖かった。


いつ、何が起こるのかと以前より怯えて‥‥その延長で今まで生きてきた。



でも、年を重ねてやっと落ち着いたという様子の佐知先生には、とてもそんな事は言えなくて‥‥

あたしはその事をそっと胸にしまった。



「叶御夫妻の資金援助のおかげで、ここも子供達が住みやすい環境にする事が出来たのよ」


部屋をぐるりと見回す佐知先生。

その嬉しそうな様子に、あたしは小さく笑って話題を変えた。



「あぁ‥でもやっぱり、母は見つからなかったんですね」

「‥え?」

「結局、本当の母親はあたしを迎えに来なかった。だから、あたしは今の両親に引き取られたんですよね?」

「‥‥」


表情を変えた佐知先生に、あたしは苦笑して首を横に振った。


「あ、でも‥気にしてません」

「ひなこちゃん‥?」

「あたしは今の家族に引き取られて、凄く幸せだから」

「いいえ‥そうじゃないのよ」


佐知先生はそう言って、驚いたように目を丸くする。


「それは、どういう事ですか?」


首をかしげたあたしに代わって、航平が佐知先生に尋ねた。


「ひなこの実の母親は、ひなこを迎えに来たんですか?」

「え?‥えぇ、まぁ‥‥」


「おかしいわね」そう何度も繰り返す佐知先生に、あたしと航平は顔を見合わせる。


何がおかしいのか、あたし達と佐知先生の認識の違いが何なのか、サッパリ分からない。

その場の妙な雰囲気に耐えられなくて、あたしは佐知先生に向かって口を開いた。


「あの‥何がおかしいんですか?」

「‥え?だって‥‥」


戸惑った表情をあたしに向けた佐知先生は、首をかしげながら言った。



「ひなこちゃんの実のお母様は‥雪村 恵さんよ?」



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