夢みたもの
「そう‥叶御夫妻はね、園への資金援助と引き換えに、ひなこちゃんの身の安全を求めたの」

「身の安全‥?」

「お母様がひなこちゃんを迎えに来る僅かな期間。居場所を確保する為に、ひなこちゃんをこの園に置いておきたい。ただ、もうこれ以上‥ひなこちゃんが辛い思いをしないように、園長先生が手を出さないように‥‥って」


そこまで話した佐知先生は、小さなため息を吐いた。


「叶御夫妻の申し出は、園にとってありがたい話だった。非があるのはこちらなのに、その事には触れず、ただ、ひなこちゃんの身の安全を確保する為に‥‥。そんな事、たった3ヶ月一緒に過ごした子供の為に出来る事じゃないわ」

「‥‥」

「そして、経営が厳しかった園の事を考えた園長先生は、その取引に応じた」

「‥‥」

「あの時‥園長先生に僅かでも、物事を冷静に考える力が残っていて安心したもの」


佐知先生はそう付け加えて苦笑する。


「そんなの‥‥知らなかった」


あたしは小さく呟いた。


他に言葉が見付からない。

誰もそんな事教えてくれなかった。


あたしは、本当にどれだけ沢山の人に助けられ、支えられてきたんだろう。

きっと

想像以上で推し量る事なんて出来ない。



「本当に‥良いご家族に巡り合ったのね」


佐知先生はそう言ってニッコリ笑う。


「ひなこちゃんが園に戻ってからご両親に引き取られる迄‥‥園長先生は酷い事しなかったでしょう?」


「‥‥はい‥」


首をかしげた佐知先生に、あたしは小さく頷き返した。



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