夢みたもの
「でも、やっぱり‥信じられない」


「折角だから自由に見学して」そう言い残して仕事に戻った佐知先生。

昔の面影が殆ど残っていない施設内を歩きながら、あたしは何度も首を横に振った。



考えれば考える程、母が実の母親なんて信じられない。

夢を見ているんじゃないか‥‥そう思わずにはいられなかった。



「航平も‥知らなかったの?」


並んで歩く航平にチラリと視線を投げ掛けると、航平は小さく頷いた。


「うん、この話は初耳だった」

「そう‥」


何でも知ってる航平にも、知らない事があるんだ。

あたしがそう言うと、航平は小さく苦笑する。


「俺だって完璧じゃないよ」

「そっか‥」


呟くようにそう言うと、あたしは航平を見て首をかしげた。


「航平は‥‥どう思う?」

「‥‥」

「信じられる?」

「‥‥うん‥そうだね」


小さくそう答えた航平は、あたしに優しく微笑みかけた。


「話を聞いて驚いたけど、嘘をついてる感じはしなかったよ」

「‥‥」

「どうして名乗ってくれなかったのかは分からないけど、おばさんが実の母親と聞いても違和感はないかな?‥‥ひなこの事を大切にしてるのは、傍から見ても分かるし」

「‥‥うん」

「ひなこは、おばさんが実の母親じゃ嫌なの?」

「違う!!そうじゃないけど‥‥ただ‥」

「‥‥」

「ただ‥」

「うん。そうだね」


ニッコリ笑った航平は、あたしの頭を優しく撫でた。


分かってる。

大丈夫だよ。


航平の瞳がそう言っている気がする。

その全てを受けとめてくれる優しさに、強さに、あたしはほっとして航平に笑い返した。



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