夢みたもの
航平はそんな葵を見て楽しそうに笑う。


「まぁ‥一之瀬さんらしいけど」

「何よ?」

「そういう素直じゃないトコロが良いんだろうね。でも‥‥」


身を屈めた航平は、葵を正面から見つめてニッコリ笑った。


「アイツの前では‥たまには可愛らしいトコロも見せないとね」

「‥‥」

「あいつ‥?」

「何でもないわよ!!」


首をかしげたあたしの耳を塞ぐように、葵はあたしに覆い被さった。


「ひなこは気にしなくて良いの」

「‥え?でも‥」


葵と航平を交互に見ると、航平がニコニコ笑いながら口元に指を立てた。


「あぁ‥秘密ね?いいよ。でもたまには、一之瀬さんの困った処も見てみたいよね」

「‥‥ちょっと。自分が幸せだからって、人にちょっかい出すのはやめてくれない?」

「そんなつもりないよ?」


楽しそうに笑う航平に、葵はクルリとあたしに向き直って、あたしの両肩をつかんだ。


「ひなこ、今からでも遅くないわ。考え直しなさい」

「‥え?」

「何?あの‥余裕たっぷりの態度‥‥イライラするわ」

「ま‥まぁまぁ‥」


珍しく取り乱した葵の肩を叩きながら、あたしは小さく苦笑した。

視界の端で航平が口元を押さえて笑っている。

明らかに面白がってる様子に、あたしはただ苦笑するしかなかった。



そういえば、葵の恋愛話は聞いた事がない。

でも、きっと聞いたら面倒な事になるし‥‥そういう事は鞠子に聞いた方が早い。


「葵も‥‥好きな人とか居るんだね‥」


あたしがポツリと言うと、葵は慌てたように首を横に振った。


「違うわよ!そういうんじゃないの!!」

「あれ?じゃぁ‥どういう事?」

「‥‥堤君、いい加減にしないと本気で怒るわよ」


いつもと違う葵。

その様子が可愛くて、あたしは2人の会話を聞きながら小さく笑った。


色んな事が丸く収まる。

あたし達は、それぞれの道を歩き出す。



そして、残された日々はあっという間に過ぎていった。



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