あなたに呪いを差し上げましょう
「ルークさま。わたくしは……父や公爵領の領民や、この国や、大陸の平和のため、ましてやあなたさまのために死ぬのではありません」


わたくしはなにも、だれかのために泡になりたいわけではないわ。

わたくしにだって、簡単に手渡してはいけないものがあるのだもの。


どうぞ勘違いなさらないでくださいませ、とわざと感じの悪い言い回しをした。


「わたくしは。父やこの国や、あなたさまを想うわたくしのためにこそ、死ねるのです」


大丈夫、と思った。いざというときに死ぬのは怖くない。


わたくしの死ぬ瞬間、そのたった一瞬だけでもわたくしの命に価値がある限り、わたくしの死は永遠に無駄にならない。


語り継がれなくても、わたくしが胸を張って散れるのならば、それだけで意味がある。忌子であった、意味がある。


「それとも、あなたさまがわたくしの望みをかなえてくださいますか。あなたさまがこの国を救い、豊かにし、大陸を永遠に平和にし、この領地を潤し、そのうえでわたくしを攫ってくださるのですか」


明確な諦念がにじんだ問いかけに、ルークさまはぎりりと唇を噛んだ。


「……友好条約を結びます」

「条約とは得てして破られるものですわ。現に隣国は、わが国に攻め入ろうとしております」


破れない条約はない。必ずと言いきれるものもない。


固い意思で言い募ると、やはりあなたは得がたいお方だ、と呟きが落ちた。


「いやですわ。あなたさまこそが得がたいお方です——殿下」
< 68 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop