あなたに呪いを差し上げましょう
うつくしいかんばせがくしゃりと歪んだ。


「気づいていたのか」

「……ええ。どうかいままでのご無礼をお許しくださいませ」


処罰はいかようにでもお受けいたします。ですがかなうなら、どうぞすべての咎はわたくしひとりに。


「処罰などさせないよ」


ふてくされて頑なな声に少し笑って、両手でドレスの裾をつまんで膝を曲げる。


このお方のお人柄がわからなかったから、家族などいないと言った。家名は名乗らなかった。

でも、きっと名乗っても大丈夫。そんな保身よりも誠意を尽くしたいと思った。


頑なに外さなかったヴェールを、ゆっくり取り払う。


「お初にお目通り賜ります。チェンバレン公爵が娘、アンジェリカ・チェンバレンと申します。……お目にかかれて光栄に存じます、殿下」

「私は、このような形であなたのお顔を見たかったわけではなかったのだけれど」


あなたが、私に心を許してくれたらと。

そのときに、私がヴェールに触れるのを許してくれたらと、思っていたよ。


「わたくしの許可は必要ありません、殿下。どうぞご随意に」

「……だから名乗らなかったのになあ」


ええ、ええ、そうでしょうね。このひとはそういうお方だもの。


はじめから気づいていた。このうつくしいひとは、あまりにすべてがうつくしい。


所作も、身なりも、なにもかもがあまりに洗練されすぎていた。そうしてときどき、言葉が乱れた。


『ルークと呼んでくださいと、言ったつもりだったのですが』


あの日、ほんとうに身分を偽るつもりなら、徹底的に身分をはぐらかすつもりなら、こう言わなければいけなかったのだ。


どうかルークとお呼びくださいと、申し上げたつもりだったのですが、と。
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