あなたに呪いを差し上げましょう
「いままでどおりに話してくれないかな。せめて殿下とは呼ばないでほしいのだけれど」

「はいめ」

「頼むから。頼むから、拝命などとは言わないで。これは命令ではないけれど、お願いだから、もう少しだけ砕けてほしい」

「承りました」

「ありがとう」

「いえ」


うまく言葉を返せなかった。


王族のお願いは、どうしようもなく命令に成り果てる。たとえ相手がいやだと言っても。


「わたくし、英雄というくらいですから、(うた)に聞くように、もっと筋骨隆々な方かと思っておりました」

(うた)は大げさなものだよ。それに、私は筋肉がつきにくい体質だからね」


そのせいで威厳が出なくていけない、などと、意識のしようによっては威厳のかたまりになれるに違いないお方が、こちらの目をのぞき込む。


「アンジーは、思ったとおり、赤がよく似合うね」

「ありがとう存じます」


なんとなく、わたくしもルークさまも、ことさら慎重に、それでいて軽やかに聞こえるように言葉を選んでいるのがわかってしまった。


毎晩のように話してきたひとの一番選びやすい言葉は、お互いに推測できる。


ルークさまは、ほんとうなら「私は筋肉がつきにくい体質だからね、食べても太らないんだ」くらいは冗談を言うし、わたくしは「まあ、女性の敵ですわ! 女性の敵!」くらいは返せたはずだった。

赤が似合うと褒めてもらったら、お礼に嬉しいと付随しても、前は気にしなかった。


ほんの少し違う会話が、大きな違和感になって、まだこれだけしか話していないのに、落ち着かない気分で口を閉じる。


落ちた沈黙を、身分の低いわたくしが、先に破ることもできない。


「……困ったねえ」

「はい。ほんとうに」


やはり、いままでどおりにはいかないらしい。
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