あなたに呪いを差し上げましょう
「王子に望まれているとわかっていて、それでもなびかなかったのだね、あなたは」

「ええ。権力に興味はございませんので」

「……手厳しいなあ。ね、アンジー。ひとりごとを、聞いてくれるかな」

「はい」

「私はいくさがおそろしいよ。ひとを殺すのがおそろしい。いっそ……」


黙り込んだルークさまの続きを引き取る。


「いっそ、呪いでもほしいほど、ですか」


ルークさまがハッと目を見開いた。


それは。わたくしがあの呪われ令嬢だということを、呪われ令嬢はどんな娘かを、やはり知っているということだった。


匿うだなんて名前を知っていると明言したも同然の発言から、おそらく名前も特徴も噂もご存じなのでしょうと予想はしていたけれど。


「……いまからでもお帰りになりますか? 呪われた女なんて不吉でしょう」

「呪いというのは、そう言い伝えられているだけで、実際に呪いのせいで被害が出たわけではないのだったね」

「ええ。でも、たいていの忌子の母親は、忌子を産んでしまった罪悪感で気が触れます」


母もそうだった。

呪いがあってもなくても、結果は結局それほど変わらない。


検証されないのはそのせいだ。どちらにせよ、黒は嫌われて疎まれる。


「悪評が立って一族が不幸になることも多くあります。呪いではないかもしれませんが、これで忌子を恨まないひとはおりません」

「いるよ。恨まない者は、ここにいる」


喉が詰まる。そっと吐き出した吐息は不恰好に泣きぬれていた。


ずっと欲しかった言葉を、ずっと言ってほしかったひとが言ってくれるのは、泣きたいほど胸を突いた。


一番は父に言ってほしかった。おまえを愛していると。恨んでいないと。


でもそれはあまりにかなわなくて、あまりに贅沢で、無謀だと思い知っていた。

だからずっと期待しないように押し込めて、このひとと出会ってからも勘違いしないように戒めて。


でも、ほんとうは。ほんとうはずっと、だれかに許されたかった。

必要とされていなくてもいいから、ただ、生きていてもいいと言われてみたかった。
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