あなたに呪いを差し上げましょう
「……あなたは呪いでさえやさしいのだね」


ルークさまは泣きそうに顔を歪めた。


「それでは呪いにならないじゃないか」

「呪いです。あなたさまを縛ってしまっている。ひどい呪いです」

「私が望んだことだよ。……これが呪いなら、もっとひどい呪いも、ほしい気もするけれど」


そんなことを言って、もう少し笑った。

こちらも笑い返して、名前を呼び、不躾とわかっていることを続ける。


「ルークさま。大切なもののなかに、わたくしを入れてくださいませんか」


増やす。増やす。言霊を増やす。しがらみを増やす。呪いを増やす。

このうつくしい英雄が、きっと無事に帰って来られるように。


声が震えても、視界が歪んでも、絶え間なく。


半ば祈るように。蝋がとけるように、花がしぼむように、あなたに、毒をばそそげ。


「ルークさま。わたくしにいくさはわかりませんけれど、口を挟むのをお許しください」


どうか。どうか。


「あなたさまに、勇ましく死ににゆけと願うのを、お許しください」


耐えかねて声がかすれる。頬も鼻も唇も飛び越えて、ぼろ、と、生ぬるい雫がふた粒、床に転がった。


まつげが重さを増している。頬を幾筋も流れた涙が、引き結んだ唇を過ぎ、顎を滑り落ちて木目に染みをつくっていく。


表情が見えないように深く頭を下げる。


傲慢かもしれない。思い上がりかもしれない。


ただ、ルークさまがこの国を大事にしているから、わたくしも大事にしたいから、言うのだ。


「行ってください。そしてきっとこの家に帰って来てください。お待ちしております。どうぞご無事で。……お待ちしております」


ね。ほら。


「ひどい、呪いでしょう?」

「……ああ。ひどい——ひどく、やさしい約束だ」
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