あなたに呪いを差し上げましょう
夜、耳慣れない物音で目が覚めた。金属同士がぶつかるような、硬質な、耳障りでいやな音だった。


そっとまぶたを開けると、寝台の周りをぐるりと数人が取り囲んでいる。その手には、武器。


「……みなさま、呪われ令嬢の容姿をご存じでしょうか」


武器を振り下ろされるのを警戒してとっさに話しかけてしまったけれど、相手は付き合ってくれるらしい。


「夜のような黒髪に、血のような赤い瞳の女だろう。ちょうど、おまえのような不吉な色をした」

「ええ、そのとおりですわ」


この身はまさしく不吉な色をしている。


「それでは、みなさま。呪われ令嬢の身柄が、隣国との取引に使われる予定であることは、ご存じでしょうか」


おそろしい声が気色ばむ。


「なに?」

「こいつ、死にたくないからと嘘をついているのでは」

「取引のお約束をなさっているのは、宰相閣下です」


遮ると、息を呑む音が重なった。


「……わが父と、懇意にされているお方です」


言外に、わかるでしょう、と言った。懇意なのは自明だもの、言っても問題ないでしょう。


ここは呪われ令嬢の屋敷。チェンバレン公爵家の別邸。


黒々とした影で姿がよく見えないものの、忍び込んできたのは、わたくしがだれか知っていて、おどろおどろしい理由でのことに決まっている。


「仮にわたくしが嘘をついていなかったなら、いかがなさるおつもりですか。わたくしの首ひとつで少しはおさまる可能性があったものを、いまここで台なしになさるおつもりでしょうか。そして隣国に付け入る隙を与えるのですか」


黙り込む気配。


「死ぬことは怖くありません。もしこの首が必要とあらば、喜んで差し上げましょう。喜んで毒杯を賜りましょう。いつでもあなたがたの刃を受けましょう。けれどそれはけして、いまではありません」


どうぞお帰りくださいませ、と繰り返す。


「さもなくば、どうぞほしい呪いをおっしゃって」


ほんとうは呪えはしないけれど、それらしい文言で恨めしく祈るだけなら、わたくしにもできるのよ。


じり、と先に足を引いたのは、目の前に立っている人影だった。


「……この、悪魔め」


捨て台詞があんまりにも陳腐で、思わず笑ってしまう。


「あら、覚えておかれるとよろしいわ」


悪魔はやさしく話すのよ。
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