おうちかいだん
「暗くなる前の教室で、藤井さんに怖い話を聞かせるのは面白そうだね。怖くなったらいつでも僕の胸に飛び込んでおいで」


そこまで言うということは、よほど怖い話を知っているんだね。


恐怖で震えが止まらなくなるほど恐ろしい話を。


「私が怖いと思ったら、その時は稲葉くんの胸を借りるよ。それで、どんな話なの?」


稲葉くんに諦めてもらう為に怖い話を提案したけれど、そこまで自信たっぷりに言われると逆に気になってしまう。


本人には興味はないんだけどね。


「藤井さんは……夜中にトイレに起きたことってあるでしょ? 小さい頃ってさ、一人でトイレに行くのが怖くて、親を起こしてついてきてもらわなかった?」


「あー……うん。なんかそんな気がするけど、あんまり覚えてないや」


いくら思い出そうとしても、小さい頃の記憶が曖昧すぎて、そんなことがあったかも覚えていない。


だけど何となく想像はできる。


「これはね、とある家で起こった話なんだ。そこに住んでいた女の子の話」


私の手を握ったまま、スーッと閉じた稲葉くん。


それとリンクするかのように、教室の中に伸びる影が大きくなって行った。
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