おうちかいだん
個室に入り、祈るように用を足す。


「お願い、何も来ないで、何も来ないで……お願いだから、もう何も来ないで……」


顔の前で手を合わせて、小さくブツブツと呟きながら。


だけど、私の祈りは届かなかったようだ。










ザッ……。






ザッ……。









トイレの外から聞こえる、何かを引きずるような音が、こちらに向かって近付いて来る。


「やだ、来ちゃったどうしよう!」


何とかことを済ませて立ち上がり、個室の隅に息を潜めて外の音に耳を澄ませる。







ザッ……。




ザッ……。








ガラガラガラ……。


トイレの引き戸を開ける音。


いや、そんな音が聞こえるはずがない!


だって怖いから、トイレの入口は開けっ放しにしているのだから!


そして、その音はトイレの中に入って来る。


誰かの足音と、何かを引きずる音。









ガラガラガラ……ガンッ。









入口が閉じられた。


嘘でしょ……今までこんなことはなかったのに。


お母さんがついてきてくれていた時は、何かを引きずる音と足音だけが聞こえて、隣の個室に入ってから、そっと外に出れば良かったのに。


もしも本当に閉まっていたら、出る時に気付かれてしまう!
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