おうちかいだん
だって、そうとしか考えられない。


家族の誰かなら、ドアを叩いた時に返事をしてくれるはずだし、わざわざ何も言わずにこのドアの前に立っていたりしない。


私は……まんまとここに誘導されたのだ。


汗が額から頬を伝って流れる。


水分を控えていたから、喉が渇いて仕方がない。


震える身体をなんとか動かして、ドアの隙間から外の様子を窺おうと顔を近付けると……。















その向こう側に、前に見た異様な風貌の人が立っているのが見えたのだ。


「ひっ!」


と声を上げて、隙間から顔が離れた次の瞬間、その隙間に差し込まれたノコギリが、激しく上下して私を切り刻もうとしたのだ。


「い、いやあああああっ! お母さんおじいちゃん! 誰でもいいから助けて!」


だけど私が叫んだことで、ノコギリが今度はドアと床の隙間に差し込まれて、私の足を切ろうと前後左右に暴れる。


「や、やだやだやだっ! なんで私がこんな目に!」


便器を跨ぎ、壁際に避難して絶望の中で声を上げた。


何とかしないと、どうにかして逃げないと!


そう思って個室の中を見回した私は、それと目が合ってしまったのだ。
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