おうちかいだん
慌ててズボンを上げて、外に出ようと鍵に手をかけたと同時に、カシャンという音が隣の個室から聞こえた。


鍵が開いて、ドアも開いたのだろう。


私が呼び掛けても返事もしなかったのに、今になって出るなんて!


誰だかわからないけれど、一言文句を言ってやろうとしたけれど……鍵を開けようとして、私は妙な違和感に気付いた。


何がどう……というハッキリとした感覚ではないけれど、何かがおかしい。


もしかして……また天井付近から私を見ているのかと思って、顔をその方に向けてみる。










でも、そこには何もいなかった。










だったらこの違和感は……そう考えていた私は、やっとそれが何かということに気付いた。


隣の個室。


そこから出たはずの誰かが、トイレから出ていないということ。


じゃあ、どこに行ったのかと言うと……この個室の前。


ドアを隔てた向こう側に、その人はいるのだ。








まずい……まずいまずいまずいまずい!


頭の中はもうその言葉以外は出てこなかった。


ひんやりとした空気の中で、少し寒ささえ感じるのに、身体中からかきたくもない汗が噴き出して。


個室の外にいる人は、私をここに入れるために隣の個室に潜んでいたのだと理解した。
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