おうちかいだん
私が怖がりも、逃げもしないからか、浜崎さんも全く焦る様子を見せずに話し始める。


刃物を持っているから、いつでも私を刺して黙らせることが出来ると思っているんだろうな。


そんなことが起こらないように、私も綱渡りをするかのように、一歩間違えば死に繋がる会話を続けなければならなかった。


「こんなことまでしてるのに、意外と怖がりなんだ? だったらお風呂じゃなくて、洗面所で顔を洗えばいいじゃない」


「小さい頃からずっとその話を信じてきた私は、シャワーを浴びている時だけじゃなくて、洗面所で顔を洗う時も目を瞑れなくなったのよ! そうよ! あの話のせいで私はこんな性格になったんだわ! 絶対に許せない!」


とにかく、誰かのせいにしないと気が済まないんだね。


自分が悪いとは思いたくないから。


もしもそう思ってしまったら、きっと浜崎さんは正気を保っていられなくなるだろう。


間違いなく、そういうタイプの人だというのがわかった。


「じゃあ、それがどんな話なのか聞かせてくれる? 理由もわからないのに私は何も言えないからさ」


床に倒れてビクンビクンと痙攣する稲葉くんを前に、こんな話をするのはどうかと思うけど、これ以上浜崎さんを刺激するわけにはいかなかった。
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