おうちかいだん
「藤井さん、あなたは私と同じ臭いがするわ。稲葉くんに手を出していなかったら、私達は良いお友達になれたかもしれないわね。だから教えてあげる。私が顔を洗う時、頭を洗う時、どうして目を瞑れなくなったか」


私を見下ろし、ナイフを揺らしながら浜崎さんはポツリポツリと話し始めた。







とある家に、女の子が住んでいた。


高校に上がったばかりの女の子は、人並みにお洒落に気を遣っていたけれど、どうしても頭や顔を洗う時に目を瞑れなかった。


目を瞑れば、忍び寄る何かに気付けないから。


自分が見ていない時に、何者かが背後にいるかもしれないから。









「やだなぁ……お風呂は好きなのに、どうして私はこんなに怖がりなんだろう」


脱衣所にある、洗面台の鏡に映る自分を見ながら、これから頭と顔を洗うことを考えると気が滅入る。


中学3年生までシャンプーハットを使っていて、それを友達に言ったら笑われたから、恥ずかしくてもう使えなくなった。


だけど、それが良くなかった。


友達にどれだけバカにされようと、自宅でのことなんだから無視していればよかったのに、笑われたのが悔しくて、その日に捨ててしまったんだ。


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