エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「待ってください! 出張の話は私から時成さんにちゃんと――」
「花純さんは黙っていてください。俺は、婚約者の方にものすごく腹が立ってるんです。こんなにあなたを不安にさせておいて、なんの罰も与えられないなんておかしいです」
「伏見くん……」
彼の剣幕に負けて、それ以上しつこく引き留めることはできなかった。
モヤモヤしたまま廊下に出て行くふたりの背中を見送っていたら、出て行く途中で柳澤さんがかすかにこちらを振り返り、口の動きだけでなにか伝えてきた。
〝大丈夫だよ〟
確証はないが、そう言っているように見えた。
なにが大丈夫だというのだろう。伏見くんの話が嘘だと見抜いているとか?
ふたりが出て行ったドアを見つめたまま唇を噛んでいると、紗耶香ちゃんがぽつりと言う。
「ま、今回は伏見の気持ちもわからないでもないですね。婚約者さん、あまりにも花純さんの気持ちを考えてなさすぎなので」
「紗耶香ちゃんまで……」
彼の言動で不安になっているのは自分なのだけれど、他の人に時成さんを悪く言われるのは、あまり気分のいいものではない。
時成さんってたしかに言葉が足りないけれど、いいところだっていっぱいあるのに……。