エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「それはそうと花純さん、そろそろ各テーブルに材料配らないと」
「あっ、そ、そうだよね! ごめん!」
紗耶香ちゃんの冷静な声で我に返り、慌ててプライベートな思考を頭の隅に追いやる。
授業が終わったら、柳澤さんを捕まえて話をしよう。出張の件を、時成さんに誤解されるのだけは嫌だもの。
そう意気込んだはいいものの、私はその日に限って、授業後にほかの生徒に捕まってしまった。
『子どもの誕生日に作ってやりたくて』と照れくさそうにしながら、改めてのり巻きのコツについて質問してきた優しいお父さんを、無下にできるはずもない。
彼のために軽く今日のおさらいをした後、断面が花や動物の顔になる子どもが喜びそうな太巻きのレシピを印刷して渡した。
そうこういるうちに、柳澤さんの姿は教室から消えていた。
こうなったら、自分で先に時成さんに話すしかないか……。今夜はどんなに彼の帰宅が遅くても、寝ないで待っていよう。そう決めてしまうと、いくらか気持ちが軽くなった。