エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 穏やかな口調ながらも鋭く確信を突いた先生の言葉に、伏見くんの目がハッとしたように見開かれる。その横顔を見つめていると、彼の気持ちに大きな変化が訪れているのがわかった。

 やっぱり、泉先生はすごい。そう感心するとともに、私自身も、彼女の言葉に気づかされることがあった。

「伏見くん、私もね、あなたの話を聞いてからずっとモヤモヤしてた。料理が大好きで、真面目に努力できて、私の弟子になりたいって直談判する度胸もある。なのに、実家のお店のことは、最初から諦めてそっぽを向いてる。それってすごくもったいないと思う。もしかしたら、あなたが料亭伏見をもっと素敵なお店に変えられるかもしれないのにって」
「花純さん……」

 ぽつりと呟いた伏見くんの瞳が、かすかに揺れてきらめいた。

 きっと、彼自身もずっと悩んできたのだろう。このまま実家の店を無視していていいのか。自分の今歩んでいる道は正しいのかって。

「無責任にけしかけるつもりはないけれど、あなたならやれる。短い間だけれど、師匠をやってきた私にはわかるよ」

 伏見くんの巣立ちを予感して、私の瞳にもうっすらと涙の膜が張る。その様子を見ていた泉先生が、突然茶化すような声で言った。

< 178 / 233 >

この作品をシェア

pagetop