エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
どくどくと脈打つ鼓動の音に耐えながら、ラウンジの窓から都会の景色を眺めること数分。私の座っているテーブルのそばで、スーツ姿の男性が立ち止まった。
「榛名花純さん?」
体の芯に響くような低い声で名を呼ばれ、私は腰かけていた一人掛けソファからすっくと立ち上がった。
細身のダークネイビーのスーツに淡いブルーのシャツ、シンプルなピンドットのネクタイを辿って、見上げるほど背の高いの男性の顔に焦点を合わせる。
艶のある黒髪ショートヘアは、長めの前髪を七三で分けている。きりりと整った眉に、鋭い切れ長の目。スッと通った鼻筋に理知的な薄い唇。
……なんて見目麗しい男の人なんだろう。
ついぽうっと見惚れそうになるが、私は慌てて頭を下げる。
「は、はい! はじめまして、榛名です! 司波時成さんですか?」
感じよくハキハキ挨拶をしたつもりなのだけれど、彼はぐっと眉根を中央に寄せた。
「そうだが、あまり声を張り上げないでもらえないか? 寝不足なんだ」
「えっ? あっ……す、すみません!」
やってしまった……。最初から悪印象を与えてどうするのよ。