拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着愛が重すぎます!~

おまけ:供給過多には要注意でして。



「フィアナさーんっ!!」

 ばたんと勢いよくルーヴェルト家の屋敷の戸が開く。飛び込んできたエリアスは、フィアナをぎゅむぎゅむと抱きしめて頬ずりした。

「天使で女神でマイスウィートハニーなフィアナさーん! 帰ってまいりました。貴女に会いたくて、一目散に帰ってまいりましたー!」

「わかった、わかりましたから! ていうか大袈裟すぎですよ、朝出てって夜帰ってきただけじゃないですか」

「だって、うちでフィアナさんが待っていると思うと嬉しくて堪らなくて! ああ、フィアナさん、いい匂い……っ!」

「ちょ、こら、くんかくんかしないでください、するな!」

 ちなみに、ふたりの結婚式があってから数週間経つが、エリアスが帰るたびにこういった具合のいちゃいちゃが繰り広げられている。バカップル花畑ムード、全開である。

 ちなみに、エリアスが張り切っているのとシャルツがかつてより政務に手を出すようになったことで、以前よりエリアスの帰宅時間はぐっと早くなった。なので夕食はふたりで食べるなど、のんびりと平和で――ここだけの話、大層な甘々な――時間を過ごせている。

 夕食は屋敷でダウスたちが用意してくれたものを食べるか、グレダの酒場にふたりで行くかのどちらかが大半だ。今日は屋敷で食べようと決めていたので、宰相服から着替えたエリアスは軽やかな足取りで居間に戻ってきた。

「フィーアナさんっ。お待たせです、ごはんにしましょっ」

 言いながら、エリアスがちゅっとフィアナの額にキスを落とす。あまりに自然な流れで、――というより、これも毎日の出来事すぎて、フィアナはもはやされるがまま受け入れてしまった。

(エリアスさん、ほんと毎日楽しそうだな……)

 照れ隠し半分、フィアナはぽりぽりと頬を掻く。そうやって見つめていると、視線に気づいたエリアスがこてんと首を傾げた。

「どうかしました? 私の顔、何かついてます?」

「ああ、いえ。エリアスさん、今日も元気だなーと思って」

「へ?」

 きょとんと瞬きをしてから、エリアスはにへらと笑み崩れた。

「やだなー、当然ですっ。大好きなフィアナさんと念願叶って夫婦になれたんです! 楽しくないわけ、ないじゃないですかっ」

「っ!」

「愛しています。天使で女神な、マイスウィートハニーのフィアナさんっ」

 エリアスの心から幸せそうな笑顔に、フィアナのハートもきゅんと弾んだ。

(そ、そっか。そうだよね)

 なにせ新婚さんなのだ。夫婦なのだ。そりゃあ幸せに決まっている。

 もちろんフィアナだって毎日楽しい。いかんせんエリアス相手だと突っ込み役に回ってしまう彼女だが、本当は彼が戻るたび胸の内でぴょんぴょんと飛び跳ねている。

(でも、それだけでいいのかな……?)

 ふと気になって、フィアナは首を傾げた。エリアスと同じように自分も幸せだと、ちゃんと彼に伝わっているだろうか。

(エリアスさんが幸せそうだと私も嬉しいし……。ってことは、私も幸せだってことを伝えられたら、エリアスさんももっと幸せを感じてくれるだろうし……!)

「あれ、どうしちゃったんですか。おーい。フィアナさーん。戻っておいでー?」

 うんうん唸って考え込むフィアナを、エリアスがゆさゆさと揺らす。その間も、フィアナは真剣に考えに考え――、ついにきゅぴんと閃いた。

(ちょっと、ううん、すっごく照れくさいけど……。ええい、ままよ!)

「エリアスさん!」

「はい??」

 ぎゅっとエリアスの服の裾を掴んで身を乗り出したフィアナに、気圧されたようにエリアスは頷く。

 湖の湖畔のようにきれいなアイスブルーの瞳に、顔を真っ赤にした自分の姿が映りこむ。それでもフィアナは、勇気を振り絞って叫んだ。

「わ、私も、毎日とっても幸せですから! ま、まままま、まい、だーりん……っ!」

 しん、と居間に静寂が満ちた。

 やがて、耳を疑うような顔でエリアスが繰り返した。

「ま、まい……?」

「……だーりん、です……」

 消え入りそうな声で、フィアナは続ける。言った途端、フィアナの心は羞恥でいっぱいになった。

(あー、いわなきゃよかった、いわなきゃよかったーーーー! エリアスさんびっくりしてるし! ていうか、自分はスウィートだのハニーだのエンジェルだの好き勝手いってるくせにー! いいじゃん、ダーリンぐらいいいじゃん!!)

 自棄になったフィアナが、エリアスに八つ当たりしようしたときだった。

「――…………かはっ!!!!」

 空気の塊を吐き出し、エリアスがソファの上に昏倒した。

 仰天したフィアナは、ぐったりと倒れるエリアスに慌てて駆け寄った。

「ええええエリアスさん!? どうしたんですか、大丈夫ですか=ーーー!?」

「……むりです……しあわせすぎて……しねます……ここは天国……? あれ……? わたし、お墓どうしましたっけ……?」

「ちょ、ダメ、ここ家ですから!! 天国とか空の上の上のそのまた上ですから!! 戻ってきてーーー、エリアスさーーーーん!?!?!?」



 過分な幸せは、ときに心臓の音を止める凶器になりうると。

 後に復活したエリアスは、大真面目にそう力説したのであった。


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