渚便り【完】
言ったからには早く戻らないとだな。
束の間の再会だったが、そもそもこれはイレギュラーな出来事なのだから、俺は速やかに伊波の前を去るべきだ。
ワガママを貫きたい自分をなんとか説得して、後ろ髪を引かれる思いで場を立ち去ろうとした俺に、伊波の明るい声がかかる。
「ねえねえ、明日は何するの?」
「自由行動だから、適当に街ぶらつくつもり」
「……そう」
笑っているはずなのに、伊波の表情は不思議とどこか切なげな要素も含まれている気がした。
向こうの敷物でくつろいでいる一家を一瞥した伊波は、躊躇うような仕草を見せながらも数歩俺の方に近付いてくると、小さな声でこう言った。
「迷惑じゃなければ、明日会えないかな」
どうしてそんな期待させるようなことを言ってきたのか伊波の真意は俺には計りかねたが、とにかく舞い上がってしまうほどに嬉しくて堪らなくて、もう他の全てを投げ出してしまいたい衝動にすら駆られた。
俺はどこまでも情けなくて駄目な男だった。
けど、ここで頷いたことを俺は一生後悔しないだろう。そんな確信さえ抱いていた。
同時に罪悪感より満足感が勝った自分が、いかに身勝手で愚かな人間か思い知らされた瞬間でもあった。
束の間の再会だったが、そもそもこれはイレギュラーな出来事なのだから、俺は速やかに伊波の前を去るべきだ。
ワガママを貫きたい自分をなんとか説得して、後ろ髪を引かれる思いで場を立ち去ろうとした俺に、伊波の明るい声がかかる。
「ねえねえ、明日は何するの?」
「自由行動だから、適当に街ぶらつくつもり」
「……そう」
笑っているはずなのに、伊波の表情は不思議とどこか切なげな要素も含まれている気がした。
向こうの敷物でくつろいでいる一家を一瞥した伊波は、躊躇うような仕草を見せながらも数歩俺の方に近付いてくると、小さな声でこう言った。
「迷惑じゃなければ、明日会えないかな」
どうしてそんな期待させるようなことを言ってきたのか伊波の真意は俺には計りかねたが、とにかく舞い上がってしまうほどに嬉しくて堪らなくて、もう他の全てを投げ出してしまいたい衝動にすら駆られた。
俺はどこまでも情けなくて駄目な男だった。
けど、ここで頷いたことを俺は一生後悔しないだろう。そんな確信さえ抱いていた。
同時に罪悪感より満足感が勝った自分が、いかに身勝手で愚かな人間か思い知らされた瞬間でもあった。