渚便り【完】

最大級の幸福を

昨夜、交換した連絡先で宿泊しているホテルの名前を教えたら、伊波が近くまで迎えに行くと言ってきた時は驚いたがこういうことだったのか。
アニキ、もとい新垣さんが運転する大きなワゴン車に揺られながら納得がいった俺の隣では、私服姿の伊波が外の景色に目をやっている。
妙な気分だ。俺の好きな伊波が好きだった男の車で送迎してもらうなんて、予想だにしない展開だった。

そもそも伊波とこうして一緒にいること自体が、信じられないような出来事なのだ。
まさに偶然に偶然が重なったようなシチュエーションは、未だに夢を見ているのではないかと不安を抱いてしまうほどである。


「これから仕事なのに私のワガママに付き合ってくれてありがとね、アニキ」
「いーってことよ。可愛い妹分の頼みだ」
「今度ちゃんとお礼するからね。私にできることがあれば家事の手伝いとかするよ!最近仕事も忙しいみたいだし無理しないでね」
「気にすんなって。仕事なんて水平線の彼方に吹っ飛ばせばへっちゃらだからよ!」


出た名言。本物を聞けたことに感動を覚えつつ、いや仕事は吹っ飛ばしちゃ駄目だろ、と突っ込みを入れたくなった。
新垣さん、伊波が話していた通り面倒見が良くて明るくて、俺とは正反対で太陽みたいな人だ。
オマケに顔もかっこいいし、体も鍛えてあって、男から見ても魅力がある人だってわかる。
こんな人と俺が張り合えるわけがないんだよな、なんて内心自嘲してしまう。
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