温もりが思い出に変わる頃【完】
「……ぇ?」


借金返済の為に、卒業後しばらくしてから足を踏み入れた風俗業界。
返済終了後も効率のいい稼ぎに後ろ髪を引かれる思いで、ずるずると引き摺ってしまっている。
辞めたところで行き場の無い私には都合の良い世界ではあったけれど、本当はこんなことしたくなかった。

あの人を想い続けたがため未だ処女でいる私の中を、客の男達は汚い指で掻き乱す。
入りたての頃は何度も吐き気を催してはトイレに駆け込んでいた。
それなのに今の私ときたら、務めて数年も経てば体はすっかり環境に馴染むものだ。
皮肉なもので、役者魂がこの仕事の成績に貢献してくれたのも事実。

そしてかつて、誰からも必要とされていない自分に生きる価値なんてあるのだろうか、そう考えて自殺の言葉を脳内にチラつかせていた私にとって、この仕事は承認欲求が満たされる貴重な場でもあったのだ。
そんな場所に予期せぬ人がいる。
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