温もりが思い出に変わる頃【完】
破天荒なことをしたばかりに血の繋がった親族からも見放され、孤独を感じながら絶望の淵に追いやられ、私の中の全てが崩壊しかけていた。
毎日が悔しくて苦しくて辛くて、ふとした時に頭を過ぎる「死」の文字。
検索エンジンに何度「自殺の方法」と打ち込んだことか。駅のホームで、今飛び込んだら、と何度考えたことか。

それでも私が自殺を踏み止まったのは、あの人の顔を忘れられなかったからだ。
私が中学生になって間もない頃、あの人は不慮の事故で致命的な傷を負って役者を引退した。
あの頃私は悲しくて涙が枯れるほど泣いたけれど、一番辛かったのは本人のはず。

それでもあの人は生きている。最近はメディアの露出もすっかり無くなっているけれど、一度でもあそこまで知名度を上げた人だ。
訃報があればメディアが黙っているはずがない。だけどそういう話は聞かない。
つまりあの人は芸能界からは姿を消してしまったけれど、この世界のどこかで精一杯生きているはずなのだ。

あの人に生きる希望をもらった私はこんなことで挫けてはいけない。
そう、あの人の存在はいつだって私にとって生きる糧になっていた。

だから驚きを隠せなかった。
< 3 / 24 >

この作品をシェア

pagetop