【完】黒薔薇の渇愛
「ほぉら、もう天音ちゃんの出る幕はおしまい。
こっからは俺と岡本奏子君とで話し合いだから。
ほーれほれほれ、さっさと帰りな?」
シッシッと野良猫を払うみたいに手を動かし、私たちの前にゆらりとやってきた桜木。
桜木はポケットから取り出したタバコに火をつけ、その明るさで綺麗な顔を晒す。
「……っ、もう好きにすればいいだろ」
やけくそになっている奏子が、桜木を見上げながら言う。
「はぁ?」
「もうどうでもいいんだよ……バッカなんじゃねーの、カッコつかねぇだろ」
「あのさぁ……」
ゆらりと揺れながら天井に向かって消えていくタバコの煙の様に。
しゃがみこんで奏子と目を合わせる桜木から、おちゃらけた雰囲気が消えた。
「子供みたいなこと言ってんじゃねぇよ。
テメェが作り出したんだろ、この状況。」
「……っ」
「自分のしてきたことが急に上手くいかなくなった途端、女に八つ当たりなんて情けないにも程があるね。」
「……」
「……まあ俺にとっちゃお前が情けなかろうがクズだろうが、天音ちゃんに酷いこと言おうがどうでもいいことだけど」
グシャと、吸っていたタバコを握りしめる桜木は、その手のなかで火を消した。
「こっからは、逢美とか姉さんとか関係なく俺個人の感情で動かせてもらうね。」