【完】黒薔薇の渇愛
バッと勢いよく桜木から離れる。
桜木は「あーあ、言わなきゃもうちょっと堪能できたのに。俺のバカ」と少し残念そうに私を見下ろしながら、だけど、今度はちゃんと目線が合う様に彼はしゃがむ。
「ねねっ、天音ちゃん。
俺さっき言ったよね?」
「へっ……」
「獲物取られるの好きじゃないって。」
グッと桜木が私の肩を強く掴む。
ピリッと、肌で感じる彼の雰囲気の変わり様。
コロコロ変わって、まるで万華鏡みたいで。
けっして二重人格とは思えないほど、性格も喋り方だって統一している桜木なのに。
ときどき……ブレて見える桜木のことを怖いと思う。
なに考えてるか分からない。
こんなに近くで喋って、嫌なことだっていっぱいされたのに。
私はいまだに、桜木桔梗という人間の性質をうまく掴めないでいる。