キミと、光さす方へ
「だ、だって、勇人はみんなの人気者だし……」


「人気者とは恋愛しちゃいけないいっていうの?」


強い口調で言われてあたしは黙り込んでしまった。


恋愛しちゃいけないなんて思っていない。


ただ、あたしと勇人の間には壁がある。


誰にも見えない壁だ。


それはもちろん、泉にだって見ることができない。


だから一見、あたしと勇人は上手くいきそうに見えているだけなんだ。


「琴江っていつもそうだよねぇ」


不意にやわらかな口調に戻って泉が言った。


見ると、泉は今度は呆れ顔になっている。


あたしは泉を怒らせたり、呆れさせたりと忙しいみたいだ。


全然、そんな自覚はないんだけど……。


「いつもそうって、何が?」


あたしは最後のおかずを口に入れて、お弁当箱を閉じながら聞いた。


「目の前に大きな幸せがあるのに、絶対に自分からは手を伸ばさない」


泉はそう言って空へ向けて手を伸ばした。
< 13 / 302 >

この作品をシェア

pagetop