キミと、光さす方へ
一瞬、教室内が水を打ったように静かになり、そして囁き声が聞こえてきた。


その声は決して転校生を歓迎するささやきではないことだけは、わかった。


「自己紹介をして」


先生に言われて転校生は「松本直哉です」と、ボソボソした声で言い、適当なお辞儀をした。


その態度に女子たちから笑い声が聞こえてくる。


「自己紹介はもっとハキハキしていた方が印象がいいわよ。松本くんの席はあそこです」


先生が指差したのは教室のど真ん中の席だった。


あたしはそれを見て息を吐きだした。


先生ってば、どうしてあんな場所に転校生の席を用意したんだろう。


あそこは教室内で一番目立つ場所だ。


もっと明るい、それこそ太陽みたいな転校生ならあの場所でも問題なかった。


教室の真ん中にいるということを逆手に取って、みんなと打ち解けるだろう。


でも、松本くんはどうやらそういうタイプではないみたいだと、ひと目でわかった。


彼はあたしと同じ陰の存在だ。


自分から陰を好んで、そこでひっそりと咲いている花。


それなのに、あんな場所をあてがってしまうと変に注目を浴びることになる。


陰に咲く花が無理に太陽を浴びさせられると、きっと萎れて元気がなくなってしまうだろう。
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