キミと、光さす方へ
ドアの前に立っていたのは松本くんだった。


松本くんは長い前髪の奥からあたしたちを見ている。


「なんだよ松本。どうした? 忘れものか?」


勇人は抵抗なく話しかけるが、あたしは身構えてしまった。


松本くんはチラリと勇人へ視線を向けて、左右に首を振った。


松本くんがクラスメートの問いかけに反応したのは初めてかもしれない。


あたしは心臓がドクンッと大きく跳ねるのを感じて、動揺した。


それは勇人へ対してのドキドキとよく似たものだったからだ。


「じゃあなんだよ」


松本くんはうつむいたまま真ん中の席へ向かい、机の中を確認している。


そして小さな声で「ない……」と、呟いた。


きっとみんながいる喧噪の中では聞こえなかった声だ。


でも、今は教室に3人しかいない。


松本くんの小さな小さな呟きは、あたしと勇人の耳にしっかりと届いてきた。


あたしと勇人は目を見かわせた。


「大丈夫か? なにか無くしたのか?」


勇人が聞きながら松本くんに近づく。


財布やスマホだったら大変だと、あたしも腰を上げていた。
< 49 / 302 >

この作品をシェア

pagetop