俺のボディガードは陰陽師。~第五幕・白昼夢~
それは、中等部にいた頃の話。
兄貴に彼女の薫を寝取られた挙句、被害者の俺が後ろ指を差された話だ。
兄貴は、学園では絶対的存在。
なので、兄貴が悪いことをやっても、それが『正義』となっていた。
まさに、正義と悪のひっくり返った瞬間。
…いや、俺も正義ではなかったと思う。
兄貴や薫をそんな事に走らせた理由には、俺にもあったからだ。
兄貴は俺から薫を引き離したくて、薫は薫で更なる名誉を手に入れたくて。
むしろ、いろんな方向の『正義』がぶつかり合って。
俺が傷付くカタチとなった。…いや、傷付いたのは俺だけではないと思う。
薫だって…。
そう言われると、『正義』って何なんだ?
そこは、共感できる。
けれども…。
「…この世は、正義も悪もないですよ」
昔のことを頭に過らせながら、おもむろに呟きを口にした。
「…へぇ?」
俺が意見を述べ始めたことで、彼が身を前に乗り出した。興味津々といったところで。
「そのココロ、聞かせてよ」
薄気味悪い笑みは、体の芯を凍りつかせるよう。