やさしいベッドで半分死にたい【完】
聞こえなければ幸せなのかもしれないなんて嘘だ。
こんなにもやさしい人の声を、ほとんど逃してしまう人生なんてくるしい。この人の声を聴いていたい。いつも、感情など乗せていなさそうな声なのに、たっぷりと愛情が含まれているようなやさしさの声だ。
鼓動の音も、呼吸する音も、地面を踏みしめる音も、すべてを逃したくないと思った。それがどういう感情なのか、ふいに頭の裏によぎって隠してしまう。
「治ったら、またやりたいこと、付き合ってやるから」
「はは。本当ですか」
「ゲーセン? 行きたいんだろ?」
「あ、え……。言いましたっけ? まあ、今も行ってみたい、ですけど」
「俺が好きなアーティストのライブを観たいとか」
「それは、そうですね。気になります」
「一日中、映画館にこもって映画三昧」
「花岡さん、びっくりするくらい覚えてますね」
励ましてくれているのだと思う。
くるしいから、もう忘れてしまおうと思っていた。当たり前にあるものだから、消えてしまう可能性なんて思いつきもしなかった。
できないまま、今じゃなくていいやと諦めたことがいくつもある。けれど、諦めない生き方もきっとどこかに存在していた。