私しか、知らないで…

「花澤?
帰るのか?」



背中から先生の声が聞こえた



無視して廊下を歩いた



すれ違った人が私を見た



知ってる

泣いてるんでしょ





「花澤!
帰るのか…?
おい、ちょっと、待って…
もぉすぐ終わるから…」



先生が追いかけて来て私の肩を掴んだ



「ひとりで…帰れる…」



見ないでよ!



好きな人に

こんな顔見られたくない



「花澤…送るから玄関出て待ってて…」



先生がポケットからハンカチを出して

私に渡した



私は受け取らなかった



「いい…

ひとりで帰れるから…
大丈夫…」



「お母さんと約束したから…」



「いい…大丈夫…」



「ダメ…」



「じゃあ、北翔と付き合う!
付き合えばいんでしょ!

そしたら先生、安心なんでしょ!
そしたら先生に、迷惑かけない

そしたら先生…
そしたら先生…

嬉しいでしょ
嬉しい?私が北翔と付き合ったら…」



先生は

嬉しいとも

嬉しくないとも



付き合えとも

付き合うなとも



言わなかった



「ごめん…」



それ、答えになってないよ!

聞いたことに答えてよ!



教えてよ!

先生でしょ!



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