Xmas eve in2020
「吉田さんと奥さんは、大恋愛だったんだ。」


駅に向かって歩きながら、河嶋さんはそんなことを言い出す。


「えっ、そうなんですか?」


「僕は奥さんとも、前の店で一緒だったから。僕より2つ下だったかな、寝具売場の担当で、とにかく綺麗な子で。狙ってる奴も多かったんだけど、吉田さんのアタックぶりの猛烈さと言えば・・・いまだにあっちの店じゃ、語り草になってるくらい。」


「なんか、想像つきます。」


そう言って、私はまた笑ってしまう。


「奥さんの方は、最初の内は『タイプじゃない』って、引き気味だったんだけど、吉田さんは全くめげなかった。最後は奥さんの方の根負けというか、吉田さんの粘り勝ちというか・・・。あれだけ想われたら、奥さんも幸せだと思うし、吉田さんすげぇな。俺にはあそこまで出来ねぇよなぁって、素直に感心した。」


そんな話をしながら、私達は駅に着き、電車に乗り込む。私達の乗る列車はいわゆる反対方向だから、悠々と座ることが出来た。


「それにしてもさ。」


「はい。」


「先週の土日もそうだったんだけど、今日もパパやママが子供達にプレゼントを選んでて。中には、『サンタさんへ』なんて書かれた、ひらがなばかりの手紙を握りしめて、このおもちゃありますかって聞いて来るお父さんがいたり・・・。僕もかれこれ7年、この仕事やってるんだけど、なんかいいもんだなぁなんて、改めて思っちゃったよ。」


「・・・。」


「今まで、そんなことあんまり考えたことなかったんだけど、今は密を避けるとか、人との濃厚な接触を避けなきゃならないとか、会食する時も、マスクをして、少人数でとか・・・。感染がなかなか収まらないで、逆に拡大してる現状なんだから、仕方ないとは思うけど、なんかやっぱり寂しいよね。そういうのは。」


「そうですね。」


「ニュ-スを見てると、感染経路のNO1は家庭内感染だそうだから、今や家族の間でもソ-シャルディスタンスに配慮しながら、暮らさなきゃならないんだからなぁ。でも、今日来てたお父さんやお母さん達は、子供の笑顔が見たくて、子供の夢を壊したくなくて、一所懸命サンタクロースになる準備をしてた。感染症は確かに怖いけど、家族の絆や愛情って、絶対にそんなものには負けてないって。感心したし、それに羨ましかった。」


「河嶋さん・・・。」


「今年は里帰りも出来なかったし。普段は親のことなんか、ほとんど考えないんだけど、いざ会えないとなるとな。それに、なんと言っても、普段1人だから・・・。」


そう言うと、河嶋さんは照れ臭そうに笑った。
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