翡翠の森
途中休憩を挟みながら最後に立ち寄ったのは、あの日泊まった宿屋だった。
「あら、ロイ坊っちゃん。今日は随分とものものしいお出ましだこと」
そう言ってにこにこと出迎えたのは、ここの女将だ。
その言い方から、ロイはよくお忍びで現れるのだろう。
「女、無礼……」
「やあ、ハナ。泊めてよ」
横柄な態度の兵を押し退け、ロイがカウンターに頬杖をつく。
「おやおや。お嫁さんの前で、そんな口を利くのかい。愛想つかされてもしらないよ」
ハナは後ろにいたジェイダを覗きこみ、悪戯っぽく笑った。
「ハナじゃないって。この子を口説く為に、部屋を貸してくれない?」
後ろから抱きしめるように、ジェイダの体をハナの前に押し出した。
「あ、あの。こんにちは」
ロイの甘い言葉よりも、初めて会う人に緊張するとは、多少なりとも慣れとは恐ろしい。
「ああ、こんにちは。あの時のお嬢さんがね。この子の彼女なんて大変だろ。まあ、ゆっくりしていきな」
そんな心を見透かしたように、ハナはにかっと笑ってみせた。
「あの時……」
もう、かなり昔のことみたいだ。
ロイに出逢って、ほぼ無理矢理連れて来られた時のこと。
ロイの配慮で誰にも会わなかったのだと思っていたが、彼女の協力があったのだ。
「あの時はまだ、僕らさえ信用できない状況だったからね。会わせるのは控えたけど、ハナも気にかけてくれていたんだ」
(知らないだけで、ここにも助けてくれた人がいたんだな)