翡翠の森
暑い。
目が眩むような光と、体の芯まで蒸されそうな熱気に、ジェイダすら数歩ふらついてしまう。
「久しぶりだもんね。体調、崩さないように」
サッと支えてくれたロイを見上げれば、彼も額に汗を浮かべている。
「ロイこそ」
寒冷なトスティータで育った彼には、もっと辛いだろうに。
「だから、男にそういうこと言わないの」
(また、そんなこと言って)
男だろうと女だろうと、慣れない気候は体調を崩しやすい。
(それに……何だか、前よりも暑いような)
気のせいか、ジェイダが住んでいた頃よりも気温が高いように感じられる。
(まさか、悪化してる……? )
自らの考えを否定しかけ、止まる。
「ジェイダ? 」
目を逸らしてはいけない。
もしも本当に猛暑が酷くなっているのならば、余計に成功させなくてはいけないのだ。
気がつかないふりをして、一体どうなるというのだろう。
(……大丈夫。やれる)
今、この日差しを浴びているのは、ジェイダが祈り子だからではない。
一人の人間としてこの地に立って、空を見上げているだけ。
「ううん」
この想いを伝えるまでもなく、ロイは既に悩み、決意し、また悩んできた。
「そう」
何も言わないでいると、彼は追求しない代わりに手のひらを見せた。
ずっと、手は差し伸べられていたのだ。
本当は見えているにも関わらず、そっぽを向いて手を取らずにいた。
ここで、彼の手に触れること。
最初は確かに怖かったけれど、一度指先が触れてみたら。
(……ほら)
笑って、共に歩けるから。