ささやきはピーカンにこだまして
 まず相手のタマを拾う。
 勝つために必要なのはもうひとつ。
 相手の拾いにくいタマを打つ。だ。
 それはたとえば、相手の身体をねらうこと。
 腕をろくに振れない状態でラケットにシャトルが当たっても、シャトルは飛ばない。
 弾むボールにさらに加速をつけるテニスとはちがう。
「よし。準備する」


「おっ、なんだなんだ、ヤギ。秘密の特訓か?」
 真澄先輩がとなりのコートから冷やかしてきた。
 身長が15センチもちがうせいで、ぎくしゃくと跳び箱を運んできたわたしたちには、あんぐり口を開けていたくせに、順応力はハンパないですね。
「真澄先輩。集中!」
「うへ、ヤギに怒られた」
「…先輩、ここでいいんですね?」
 (じゅん)は従順だ。
 わたしの言うことには黙って従って質問もなし。
 わたしがコートの真ん中に置かせた2段の跳び箱の上に立つと、少しだけ眉を上げたけど、わたしの次の言葉をおとなしく待っている。
 こういうときは、かわいいんだけどねぇ。
「じゃ、準。基本はドライブで返球。わたしが甘いタマを返したら、スマッシュでこれからはここをねらって」
 指先で顔と胸のまえに円を描く。
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