ささやきはピーカンにこだまして
 あせって傘の留め金がはずせないわたしの背中にそっと手を添えて、結城先輩が歩き出す。
 やっ、やっ、やっ。
 みんなが見てる!
 …気がするぅ。
 美香キャプテン、すみません。
 あこがれの相合傘なんて、気絶する。
 …と、あせったのに。
 なぜだろう。
 わたしの心臓の鼓動は静かだ。
「…………」
「聞いてるよな、八木(やぎ)は」
 あ、はい。
「すみません。まだ言ってませんでしたね。2回戦突破、おめでとうございます」
 二紀(にき)が走って行ったのも、早くクラスメイトに自慢したいからだ。
 初戦突破だけでも女バドの全員が涙ぐむ快挙だったのに、勢いのまま2回戦も突破。
(じゅん)にS1を任せるのは負担かなとも思ったけど。おれのわがままで…あいつに賭けた」
 うん。
「テクニックはおそまつですけど――。大会慣れしてるから、あの子は」
「おお」結城先輩がちょっとのけぞる。
「さすが姉ちゃん。監督の素質があるよぉ」
「――それ。二紀のものまねですか? ……似てないです」
「あははははは」
 ははは。
「先輩もふざけるんですね。…初めて知りました」
「…………」
「…………」
 雨が先輩の傘をぽつぽつたたく。
 わたしの指はもう自分の傘の留め金を外すのを、とっくにやめている。
「八木のおかげだ」
 静かに、しみじみと、つぶやくように。
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