ささやきはピーカンにこだまして
 その声には最後に賭けたひとの万感の思いがあった。
「なぁ八木(やぎ)
「はい」
「もう1週間。(じゅん)の昼トレ、見てやってくれるだろ?」
「――それはできません」
 先輩がうつむく。
 わたしの返事は、わかってましたよね。
「今日からは女バドの先輩たちも昼トレ入りますから」
「S1の門脇に相手をさせるのが妥当か……」
「1週間でも…学べると思いますよ、あの子なら」
「でもさ……」
 生徒玄関が見えてきた。
 先輩が立ち止まる。
「門脇が耐えられると思うか?」
 ふふ。
 思わず笑ってしまった。
 心配が顔に出ちゃってますよ、結城先輩。
「あの子のスケジュール、殺人的ですもんねぇ」
「八木ぃ。ひとごとかよ」
「ひとごとですよ」
 先輩が、うなだれて下がった眼鏡のフレームをちょっと押し上げた。
「門脇にも八木の忍耐力があればなぁ」
 先輩。
 それはちがいます。
「わたしは――、わたしはズルして勝ったなんて、あの子に思われたくないから――…」
「八木……」
「…………」
 結城先輩。
 わたしたち、見つめあっちゃってるけど――。
 だいじょうぶでしょうかぁぁぁ。
「八木」
「はい」
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