ささやきはピーカンにこだまして
「今度の試合はまだダメだろうけど。おれは楽しみにしてるよ、準も…おまえも。バド部の将来を頼む。準を頼むぞ、八木」
「せ…んぱい……」
わたし、ドキドキしてる。
でも、このドキドキはなんのせい?
生徒玄関のドアのまえで別れて。
3年生の靴箱に向かう結城先輩に手を振った。
先輩に手を振るなんて初めてで、今度ははっきりと周囲の子たちに見られているとわかっていたけどうれしくて。
雨の日は髪のくるくる度が10倍増しだから、いつもは超不機嫌なのに笑えている。
好きっていう気持ちは偉大だ。
吹き抜けの中央から伸びる大階段を蹴る足も軽い。
「おはー。見たよ、八木っち。あれだれ?」
「見た見た。3年生じゃん」
ふふふふふ。
カッコよかろ?
笑っていなして上りはじめた階段で、真横を吹いた突風。
驚いて顔を上げると、目の高さの踊り場に雨粒をはじく紺色のデッキシューズ。
肩幅に開いたジーンズの脚は雨粒をとろりと流していた。
階段を1段1段、踏みしめるように上りながら、わたしの頭がキーンと凍るように冷静なのは、それがだれの脚だかわかっているからだ。