ささやきはピーカンにこだまして
 ときどき消しゴムで強制的に却下しながら、わたしはすっかり頼りきり。
「こんなもん?」
「うん!」
 いやになっちゃう。
 きみにかかると、こんなにモノゴトは単純だ。
 ちょっと腹立たしいけど。
「ありがとね」
 今はやっかいごとが片づいたことのほうを優先して、喜んじゃいましょう。
「それにしても――。休みがこんなにヒマなのは初めてだな。退屈そう」
 そうかぁ。
(じゅん)は毎年、強化合宿とか、大変だったんだよね」
 ちょっぴり責任を感じるな。
 協会のえらいひとたち、ごめんなさい。
「大変だとは思ってなかったけど――。やることがあるのは助かるよね」
「今年は二紀(にき)とも、少し遊んでやってくれる? あの子、すっごく楽しみにしてるよ」
「二紀と?」
「…………」
 まずい。
 また準のアブナイモードだ。
 こほん。
 咳払いしてリポート用紙を再点検。
 うん。すっごく充実してる。
「あぁー、でも。夏休み前に決着がついてよかった。一路(いちろ)ちゃんのぐずぐずにつきあってたら、悲惨な夏休みになるとこだった。デートする相手もいないとかってさ」
 ひゃあ。
「もおおおお。その、ちゃん…っていうの、よしなさいってば」
「ははは」
 あれ?
 ほがらかに笑ったわりに……準、頬が赤い?
「なんだよぉ、そんな、見るなっ」
 だって。
「赤いよ?」
「…るさいな。わかってるよ」
 準はそう言うと、長い脚をしゅるんと投げ出して、頭をベンチの背もたれにコツンとのせる。
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